RDSとDynamoDBの設計思想から学ぶデータベース選定の考え方
はじめに
システム開発を行う上で、データベースの選定はアーキテクチャ設計の根幹を成す要素のひとつです。
近年はAWSをはじめとするクラウド環境での開発が主流となり、RDS(Relational Database Service)やDynamoDBといった複数の選択肢が当たり前になりました。
しかし、どのデータベースを選ぶべきかは、単に「SQLを使いたい」「スケーラビリティが欲しい」といった単純な理由だけで判断できるものではありません。
それぞれの設計思想を理解し、サービス特性に応じた設計判断を行うことが、安定した運用や性能最適化の鍵となります。
本記事では、RDSとDynamoDBの根本的な設計思想の違いを整理し、リアルタイム性とデータ整合性を両立するための考え方を解説します。
RDSとDynamoDBの設計思想
RDS
RDSは、テーブル構造を明確に定義し、データの一貫性と整合性を厳密に担保する設計を基本としています。
スキーマが固定されており、正規化されたデータ構造によって、更新や集計時の不整合を最小限に抑えます。
複数のテーブルにまたがるトランザクション、JOINを伴う高度なクエリ、参照整合性の制約など、ビジネスロジックを正確に反映できる点が最大の強みです。
金融システムや業務アプリケーションなど、「常に正確なデータが必要とされる領域」では依然として中心的な役割を果たしています。
DynamoDB
一方、DynamoDBはスキーマレスなNoSQLデータベースであり、データの正規化よりも「どのようにアクセスされるか」を最適化の基軸とします。
データの一部を冗長に持たせることで、読み取り時のクエリ負荷を減らし、レスポンスの高速化を図るという考え方です。
AWSが提供するマネージドなスケーラビリティと高スループット設計により、アクセス量の急増や世界規模での同時接続にも耐えられる点が特徴です。
リアルタイム通信やログ集約など、「高頻度の読み書きが発生する場面」において特に効果を発揮します。
データベース選定を左右する3つの軸
では、実際のプロジェクトでどのように選定すべきでしょうか。
次の3つの観点で整理してみます。
データの性質
扱うデータが「整合性を最優先するのか」「柔軟性を重視するのか」で選択は大きく異なります。
例えば、ユーザー情報や取引履歴など、更新ミスが許されないデータはRDSに向きます。
一方、リアルタイムな位置情報やチャット履歴のように、アクセス速度とスケーラビリティが重視される場合はDynamoDBが有効です。
アクセスパターン
RDSはJOINを伴う複雑な集計や検索を得意としますが、DynamoDBはあらかじめアクセスパターンを設計する必要があります。
たとえば「ユーザーIDから投稿一覧を取得する」「特定ルームのメッセージを取得する」といった明確なアクセスパターンが決まっている場合、DynamoDBは非常に効率的に動作します。
スケーラビリティ
負荷の特性も重要な判断軸です。
アクセスが安定しているシステムではRDSでも十分対応可能ですが、イベント時にトラフィックが急増するようなケースでは、DynamoDBの自動スケーリングが強みを発揮します。
特にグローバル展開を前提としたシステムでは、可用性と低レイテンシを両立できる点が大きなメリットです。
使い分けの指針・思考法
RDSとDynamoDBは、どちらが優れているかという単純な比較ではなく、設計思想そのものが異なるという点をまず理解する必要があります。そのため実際のシステム設計では、これらを二者択一とせず、役割に応じて併用する構成が効果的です。
たとえば、ユーザーアカウント情報はRDSで厳密に管理し、リアルタイムの通信履歴やログはDynamoDBで高速処理するといった構成です。
このように、データの特性に応じて適材適所で組み合わせることが、堅牢かつスケーラブルなシステム設計につながります。
また、データベースの選定を行う際は、「現時点の要件」だけでなく、「将来的なアクセスパターン」や「運用の持続性」を含めて考えることが重要です。
特に初期段階では、アクセスパターンが明確でないケースが多いため、スキーマを柔軟に調整しやすいRDSからスタートし、後にパフォーマンス要件が明確になった段階でDynamoDBを導入するという段階的アプローチが有効です。
逆に、リリース初期から明確な読み取り・書き込みパターンが存在し、将来的に大規模なスケールが予想される場合は、DynamoDBを前提とした設計が適しています。
このような「設計思想に基づく段階的最適化」は、システム全体の安定性を保ちながらパフォーマンスを最大化する上で効果的です。
まとめ
RDSとDynamoDBは、それぞれ全く異なる設計思想を体現したデータベースです。
RDSは整合性と構造化を重視し、DynamoDBはスケーラビリティとアクセス効率を重視します。
どちらを採用するかは、システムの性質、データの種類、ユーザーの利用パターンによって変わります。
重要なのは、どちらの技術を選ぶかではなく、「どのような思想でデータを扱うか」を明確にすることです。
サービスの要件とデータの性質を正しく見極め、その上で適切なストレージを選定する。
その積み重ねが、リアルタイム性と信頼性を両立する設計の基盤となります。